ぬか床には、手入れが欠かせません。
ひとつひとつの手入れには目的があり、すべては発酵菌(ぬか床にとっての都合の良い微生物)をバランスよく生育させることに他なりません。そのため、手入れの目的を把握しておくことがポイントになります。
そこで、手入れについての基礎知識を体系的にまとめていくことにしました。
ぬか床に生育する微生物の特徴は?
ぬか床には、複数の微生物が生育しています。
その中でも確実に理解しておきたい微生物には2種類があり、それが“乳酸菌”と“酵母菌”です。乳酸菌は主に乳酸を生成する微生物で、酵母菌は主にアルコールと二酸化炭素を生成する微生物です。
以下は、乳酸菌と酵母菌の主な特徴になります。
特徴 | 乳酸菌 | 酵母菌 |
---|---|---|
発酵様式 | 乳酸発酵 | アルコール発酵 |
生育 | 早い | 遅い |
酸素 | 感受性 | 耐性あり |
生育温度 | 20~45℃ | 10~35℃ |
乳酸耐性 | 強い | さらに強い |
アルコール | 感受性 | 耐性あり |
これらの特徴を踏まえて手入れをしていくことになります。
三相(気相、液相、固相)をイメージすることが大切です。たとえば、乳酸菌は酸素を苦手とする微生物ですので、気相が増えて液相が減れば乳酸菌は“減る“ことになり、気相が減って液相が増えれば乳酸菌は”増える“ことになります。
また、米ぬかが分解され過ぎて固相を維持できなくなれば、ぬか床はドロドロになってダメになります。
酸っぱくなったら?
酸っぱくなったら、足しぬかをします。
ぬか床が酸っぱくなるのは、乳酸菌が増えすぎている証拠です。乳酸菌は酸素を嫌う微生物ですので、足しぬかをして水分量を減らすことにより減っていきます。また、乳酸が薄まることにより酸味も和らぎます。
酸っぱすぎる状態を放置してしまうと、乳酸菌が自らの生成した乳酸によって死滅してしまうことになりますので注意が必要です。
そうなったぬか床は、短期間のうちに腐敗してきます。
アルコールやシンナー臭くなったら?
アルコール臭は、水分量を増やすことで対処します。
アルコール臭の原因は、酵母菌が増えすぎたことによるものです。酵母菌はアルコールを生成し、アルコールは有機酸と結びつく(エステル化する)ことにより“シンナー臭”や“セメダイン臭”の原因になることがあります。
強いアルコール臭は、放置できません。
乳酸菌は、アルコールに弱い性質を持ちます。酵母菌が増えすぎてぬか床のアルコール濃度が高くなると乳酸菌は死滅していきますので、pHが上昇することによる急激な腐敗がはじまってしまうリスクがあります。
ぬか床は、微生物のバランスによって成り立っています。
ぬか床が膨らむようになったら?
ぬか床が膨らむ場合、塩分濃度を高くします。
ぬか床が膨らむのは、微生物の生育が“活発すぎる“ためです。これは気温の高い季節に起こりやすい問題であり、多少であれば放置しても問題ありません。しかし、そのようなぬか床は”急激に変化しやすい状態”にありますので管理は難しくなります。
そこで、塩分濃度を高くすることにより微生物の生育を抑制します。
ぬか床に粘りが出はじめたら?
ぬか床の粘りは、最悪な状態です。
本来、ぬか床に粘りは出ません。しかし、腐敗菌が増殖したぬか床には粘りが出ることがあり、一度そうなってしまうと再生は難しくなります。これは、酸っぱすぎるぬか床やアルコール臭が強すぎるぬか床に起こりやすい問題です。
はっきりと言えば、発酵ではなく腐敗しているということになります。
はじめから作り直すことをおすすめします。腐敗とは“ヒトに不利益な微生物が優位になっている状態”です。再生が不可能だとは言い切れませんが、かなりの時間を要することにはなりますのでリセットするのが現実的です。
正直なところ、“何年物”という言葉に固執する必要はないと考えています。
【まとめ】ぬか床の手入れは?
ぬか床の手入れは、微生物のバランスを整えるために行われます。そして、微生物のバランを整えるための手入れには、ひとつひとつに“理屈“があります。一度覚えれば、様々な問題に対応できるようになります。……具体例につきましては、随時追記していきます。